BASSICSの示し方

BASSICSの示し方

専門であるT・A・Kの「N」は、人事データとエージェンシー理論を用いて、年功制と成果主義は、いずれかが絶対的に優位にあるといったものではなく、環境条件によっていずれかが選ばれるべきだと主張している。 彼らによれば、企業が扱う技術の特殊性、組織におけるポストの余裕、そして従業員がリスクに対して取る態度に応じて、賃金制度を設計すればよいことになる。
つまり、企業特殊的な技能が不しかし、従業員にとってのリスクを、賃金の変動によってだけ生じるとみなすのは偏った理解ではないか。 人は仕事に対して、金銭だけを勘定するものではない。
この点を強調しているのが、成果主義批判の急先鋒であるTである。 Tは、そもそも成果主義によって効率性やモチベーションをあげることは不可能だということを、経営学の理論を総動員して明らかにしている。
Tによれば、年功制とは、基本給が年齢に応じて上がるだけでなく、成果をあげた者にポストで報いるシステムだった。 そこには競争がないわけではなく、仕事で高い評価を得た者が次のやりがいある仕事を与えられる、ないしは出世するというルールで、賃金には生活保障的な意味しかなかった。
「年功」を強調すると、年齢によって給与が上がる点に特徴があるかに聞こえるが、むしろ成果の対価として面白い仕事を与える点が重要だという見方だ。 成果をカネで評価しない点にこそ年功制の特質がある、というわけだ。
また動機づけには外発的なものと内発的なものがあり、金銭は外発的な刺激であるが仕事のやりがいは内発的な刺激である。 先の「インプット」「スループット」「アウトプット」を用いた説明では、結局のところ対価は金銭のみが考慮され、「次の仕事の楽しさ」などは無視しているが、成果主義と年功制の相違は、Tの言うように、労働に対する評価や報酬を金銭だけで行うのか、それとも「やりがい」を含むより多元的な価値観によって行うのかの相違とみなした方がよい。

賃金に一元化された動機づけは、すでに前世紀初頭、F・Tが「科学的管理法」で唱えたものの、経営学においては理論的にも実証的にも反駁されている。 T後の経営学は、職場の人間関係を重視するなど多元的な価値観に依拠してきた。
成果給によって働くことへのインセンティブが高まるという理屈では、人は常に仕事を金銭だけと結びつけて理解していると前提している。 このような年功制から成果主義へという賃金制度の変容は、「市場化」と形容できそうである。
それは能力や業績を金銭だけで評価するという意味だが、しかし成果主義の特徴は実はそれだけにはとどまらない。 1990年代以降の政治改革・行政改革・構造改革という制度改革の流れにおいて顕著であるのは、規律づけの方針を情報非公開のもとでの裁量的な運営から、話し合い(情報公開)にもとづくルールによる運営へと変えたことである。
成果主義においても、この双方が採り入れられている。 たとえばM電器は、評価制度を上司と部下のコミュニケーションを基本とする「コミュニケーション・プログラム」と呼び、「キャリアUPプラン」と「ターゲットプラン」の二本建てとしている。
これらはちょうど先に述べたコンピテンシーの評価と個人業績の評価官標管理制度に相当しており、「キャリアUPプラン」では本人が自分の特徴や強み・弱み、将来の仕事や必要な研修、キャリアパスなどについて希望を出し、上司との話し合いを通じて人材育成が行われるという。 「ターゲットプラン」でも、上司との話し合いによって目標達成度に評価が下される。
ここで、職務行動と個人業績を賃金や賞与に反映させる「市場化」とともに、上司と部下の間で経営側のニーズと個人のニーズをオープンに対話させようとしている点が重要だ。 従来の年功制(職能資格制)では、賃金・賞与は上司や人事部によって裁量的に決められ、決定の過程は当人には伏せられていた。
それに対して成果主義を採り入れた企業は、いずれも(少なくとも理想論としては)一定のルールのもとで当人と話し合い、評価情報の共有が図られているのである。 整理してみよう。
年功制では潜在能力に対して賃金が与えられるだけでなく、やりがいのある仕事が次に与えられ、潜在能力を高めることもまた報酬である。 またそのときに、賃金は生活保障的な意味合いで支払われており、生涯所得を予測するうえでは重要な要素となっていたと推測される。

生活保障として賃金が与えられるものという理解があれば、それにもとづいて将来を見通せるという「確信」を与えるからである。 こうしてみると、年功制は、長期的にやる気を引き出し労働生産性を高めるという点では供給側に資しているが、同時に生涯所得に対する見通しを与えていて、需要側にも好影響をもたらす。
一方、成果主義には、成果に対して賃金が即座に支払われるというだけでなく、それに際しての査定が裁量によらず情報公開によって行われるという「査定の透明化」という性格がある。 金銭以外にもやりがいのある仕事を優先的に与え賃金は生活保障としてとらえるなど「多元的な価値」にもとづいて行うか、それとも仕事への評価を「金銭に一元化」するのかであり、第2は評価を「裁量的」に行うのかそれとも「話し合い」によって決めるのかという対立である。
年功制は、そのうち「多様な価値による評価」が「裁量的」に行われるというもので、第4象限に相当している。 対照的に成果主義は、二つの軸のそれぞれで対立するもの、すなわち仕事に対する「金銭に一元化された評価」を、当人と上司の間の「話し合い」によって行うというものでありうるのだ。
Tが言うように、成果をあげた者にはポストが与えられ、そうでない者も基本給は毎年昇給した。 つまり成果に対してポストを与え、そうでない者も定期昇給させた。
ところがそのためには毎年ポストを増やさねばならず、部下のいない「〜代理」を新設したり無理に組織を分割したり、採算の合わないビジネスにも手を出さざるをえなくなって、それが限界に達している。 そのうえ企業側には、IT化の進展などもあり、ビジネスとして実現するに足る着想を若手社員でも持ちうる時代になったという判断がある。
斬新な着想を持ったとしても、年功制でそれを実現しうるようなポストにまで昇進するには時間がかかりすぎ、着想を生かすことができない。 それゆえに成果主義が導入されたというのである。
これは、ポストの余裕に応じて賃金制度が設計されるとした都留らと同様の見方だ。 ところが城の主張の核心は、そこにはとどまらない。

城は、成果主義が導入された本当の狙いはタテマエとは異なっていると述べる。 「年齢や勤続年数に関係なく実績や成果にもとづいて処遇する」ことは成果主義の真の目的ではない、と言うのである。
目標管理制度においては、目標をどれだけ達成したかを上司が個人別に査定する際、絶対評価がなされることになっている。 個人業績の評価には、他の従業員が目標達成においてどのような成績をあげたかは影響しないタテマエなのだ。
ところが城は、成果主義の実態は絶対評価ではなく、相対評価になっているという。 つまり、いくら努力して自分の立てた目標を達成しても、他人の達成度がもっと高いとマイナス評価となってしまうことがある。
なぜそんなことが横行するのか。

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